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洛友会(生物資源経済学専攻同窓会)からのお知らせ

「第6回東京洛友会懇親会」実施報告(2019年6月4日)

2019/07/08

「第6回東京洛友会懇親会」実施報告



 令和元年6月4日(火)に標記「第6回東京洛友会懇親会」を開催しました。  前回「第5回」から1年半ぶりの開催となりました。この間、「洛友会」本体の組織改編もあり、また令和初の会合ともなりました。参加者は18名で内平成卒10名と平成卒業者が半数を超え、今後の会の中心となっていく年次の方々が増え、心強く思うところです。



 会は、京都から見えた小田滋晃教授からの「大学の現状」報告に始まり、「東京洛友会」代表幹事の岩崎正典氏(47年卒)による講話「何処に向かうのか、世界の菜種生産」があり、興味深く聞くことができました。



 その後懇親会に移り、河野良雄洛友会会長(47年卒)の乾杯のご発声と共に和やかに始まりました。谷合正明前農林水産副大臣(H9卒)も前回に続き参加され、ご挨拶を頂き、以後参加者全員から近況などのお話を頂戴することができました。会場の時間制約もあり、仕事等で遅れてこられた方にはゆっくりしてもらえなかったと思いますが、午後8時頃散会となりました。



 今年から毎年秋には京都で「洛友会」の総会が開かれますので、「東京洛友会」は出来れば、毎年5月末あたりでの開催を定例化していければ、と考えております。どうぞ洛友会会員の皆様には引き続き一層のご支援を頂きたく存じております。


 最後に、今回参加された方々を紹介させて頂きます。

神村義則さん(43年卒)、今尾和実さん(44年卒)、松尾浩則さん(H1年卒)、

北川泰義さん(H5年卒)、谷合正明さん(H9年卒)、梅下幸弘さん(H10年卒)、

村山直和さん(H10年卒)、田中和也さん(H12年卒)、大槻 慶さん(H27年卒)、

東 祐希さん(H29年卒)


「洛友会」より

河野良雄会長(47年卒)、鏡島正信幹事長(52年卒)、小田滋晃教授(53年卒)、

岡田栄二監事(H6年卒)、長谷 祐幹事(H20年卒)



「東京洛友会」より

岩崎正典代表幹事(47年卒)、築地原優二(57年卒)、事務局鈴木康平(52年卒)

以上18名。



 皆様、お忙しいところ、有難う御座いました。来年もよろしくお願いいたします。


                         (報告者・事務局鈴木康平)

=2019年 東京洛友会講話=

「何処に向かうのか、世界の菜種生産

東京洛友会代表幹事 岩崎正典

 24節季では「小満」の頃を迎え、北半球の穀倉地帯では陽気がよくなり冬小麦の穂が出揃う時期になったが、北米大陸では春先から低温多雨型の天気が定着した為に、春作物の播種作業が大幅に遅延することになった。当初、米国農家が大増産の意向を示したトウモロコシは、需給の緩和見通しの下で軟弱地合いを見せていたが、このまま天気が回復しなければトウモロコシは播種に適した期間が失われて、作付面積の大幅な減退と単収の潜在能力が失われる懸念が強まった。農家が播種作業の目途にしているメモリアルディ休日の時点で、トウモコロシの播種は平年が90%の完了になる所が58%に止まった事を囃して、シカゴ定期が急騰して、僅か半月余りの間に20%もの価格上昇となり、昨年初夏の値位置に戻された。大豆も小麦もこれに追随して、3週間前の約定安値の更新から反転上昇を見せ、天候プレミアム無しに天候相場が乗り切れないことを痛感させている。同時並行して、5月中に合意書への調印が期待された米中通商協議が暗礁に乗り上げ、両国間での制裁と報復関税の応酬に止まらず、国家安全保障の観点から中国の大手通信機器メーカー(華為技術)による米国製品(半導体)の調達を実質的に禁止する措置が採られる等、米中間の対立が激化している。最近は通商や外交上の問題で中国政府の強硬な姿勢が目立つが、中国は対米国のみならずカナダとの通商関係を悪化させ、カノーラ(菜種)を始めとするカナダ産の農産物の輸入制限に動いたことで、新たな緊張関係が生まれている。

*カナダ産カノーラ(菜種)を巡る中国との紛争

 米国政府の要請に基づき、カナダ政府は昨年12月に中国の大手通信機器メーカーである華為技術の孟晩舟最高財務責任者(CFO)の身柄を拘束した。中国政府の要請を退けて、カナダが米国への身柄引き渡しを前提にした法的手続きを開始すると、それまで非常に友好的であった両国間の外交関係が急速に悪化した。3月になると、中国当局はカナダ産カノーラに害虫や病害菌の混入があったとして、カナダ企業の穀物輸出業者資格を停止した。その後も、カナダ産カノーラに植物検疫上の重大な問題がある(黒脚病菌の混入)として、カナダ産カノーラの大手取扱会社の輸出資格を次々と取消した。実質上カナダ産カノーラの中国向け輸出が不可能になり、カナダの農業界は前年実績で27億ドルに相当するカノーラの輸出機会が失われたことに困惑している。既に、米国では中国向け大豆輸出に対する先行き不透明感から、米国農家が新穀大豆の作付面積を前年比5%手控える意向を見せたが、カナダ農家もカノーラの栽培を前年比で7%手控える予定をしていることが判明した。これまで中国向けが、カナダのカノーラ輸出の半分近くを占めて来ただけに、全生産高の2割強に相当する輸出需要が失われるリスクに、農家が対処したと言える。(資料① カナダ産カノーラの輸出推移)これまでも中国政府は外交上の意見が対立した際に、貿易比率の高い商品を標的にして相手国を脅迫して来た。過去の有名な事例は、2010年に尖閣諸島での中国漁船の拿捕に抗議して、対日レアアースの輸出規制に動いた他、同年末に反体制活動家(劉暁波氏)にノーベル平和賞が授与されることが判明すると、中国はノルウェー産サケの輸入を停止した。又、2016年に国際司法裁判所が、南シナ海での領有権を巡るフィリピンの主張を認めて中国の言い分を退けると、フィリピンからのマンゴー輸入が停止された。中国は、今までは世界最大のカノーラ(菜種)輸出国であるカナダに輸入の大部分(95%)を依存してきたが、そのカナダからの調達を停止することに踏み切った。(資料② 中国の菜種需給推移を参照願う。) 大豆の場合は、昨年7月以降米国産から南米諸国に振替えることは比較的容易であったが、果たしてカノーラ(菜種)でも代替の輸出国を簡単に見出せるのであろうか? 又、4月末になると中国政府が、カナダ産のカノーラのみならず、大豆、小麦、雑豆類そして豚肉に対しても、輸入規制を強化したと報じられたが、我が国の油糧種子を始めとするカナダ産農産物の調達にどの様な影響が波及するだろうか?

*カナダ産穀物需給の我が国への影響

 日本人なら小学校唱歌の「朧月夜」で菜の花畑の光景を連想することが出来るが、実はこの歌が作られた頃に日本各地で見られた菜種畑はほぼ絶滅寸前になり、日本は菜種の大部分をカナダからの輸入に依存している。(資料③ 日本の油糧種子輸入を参照願う。)カナダでは、在来種に存在したエルシン酸(心臓病の原因になる不飽和脂肪酸)とグルコシノレート(家畜の飼料としては不適切な物質、絞り粕が専ら園芸肥料にされた主因)の含有度を品種改良により低下させて、カナダ産菜種にカノーラ(Canadian Oil Low Acid)の名称を得て、ドレッシング用途、オリーブ油の代替としての販路を拡大することが可能になり、1970年代には日本向け、80年代半ばからは米国向け輸出が加わり、カナダ大平原にカノーラの栽培が広まった。90年代半ばに除草剤耐性を持った遺伝子組換え品種が導入されたことで、カナダ大平原で小麦や大麦に次ぐ第三の農作物として、農家がカノーラの増産に取り組む様になった。近年のカナダ産カノーラの需給推移を見ると約半分強が輸出されているが、約4割は国内で搾油された後、カノーラ油として約7割が輸出され、米国に次いで中国が第二位の輸出国である。従い、カノーラ種子、カノーラ油、そして菜種ミールを総合すると、カナダ産カノーラの中国向け輸出依存度は高く、全生産高の3割程度と推定される。一方、日本の菜種輸入量はカナダ産カノーラを中心に年間230万トン程度で推移して来たが、中国がカナダ産カノーラの買付を中断すればその分だけカナダの需給が緩和するので、日本の実需家が割安に調達できる機会がもたらされることになる。

カナダ産カノーラの減反は春小麦の需給緩和という波及効果

前述の様に、カナダの農家はカノーラを前年比7%(150万エーカー)減反するのみならず、大豆の栽培も前年比11%(67万エーカー)減反させる意向を示した。これら油糧種子の栽培を縮小させた畑を、主としてその他春小麦に振り替えて、前年比12%(208万エーカー)増加させることにした。米国では中国との貿易摩擦が容易に解消されそうにないことや、南米諸国の大豊作を考慮して、農家が大豆の栽培面積を5%(460万エーカー)縮小する意向を示したので、農家の油糧種子離れは北米大陸で共通のものとなった。春小麦に関しては、米国農家がその他春小麦の作付けを3%(40万エーカー)手控える意向を示したが、カナダ農家がそれを帳消しする以上の大幅な増反に踏み切った事で、春小麦(高蛋白小麦)を代表するミネアポリス定期は、高蛋白小麦の需給緩和見通しから売圧力を受けて、約定安値の更新に追い込まれた。日本は高蛋白小麦の大半を、カナダからの供給に依存して年間100万トン強を安定的に輸入しているので、中国がカナダ産カノーラの買付を停止することにより、春小麦の増産と価格の低下がもたらされたので、日本には思い掛けない贈り物になったが、その後5月中旬から播種作業の遅れが囃されると反発に転じて、ぬか喜びになった。

参考図① =ミネアポリス定期9月限(日足チャート)= 

(出所:ミネアポリス穀物取引所ホームページより)

 

*カナダ産抜きには考えられないカノーラ(菜種)の国際市場

 大豆は、ブラジルとアルゼンチンの南米産合計が米国産を上回る生産高と輸出余力を有するので、米国からの振替調達は比較的容易であった。所が、カノーラ(菜種)は、国際需給に占めるカナダの地位が圧倒的に高く、カナダ産の中国向け輸出数量を代替できる産地は簡単には見出せない。(資料④ カノーラの世界需給表を参照願う。)IGC(国際穀物理事会)の推定では、カノーラの前年度(2017/18年度)国際貿易量は1,600万トンであったが、この内カナダから輸出は1,030万トンと、全体の64%と推定される。中国がカナダ産の買付を停止した場合、中国の年間輸入必要量を450万トンと推測すると、カナダを除いた主な輸出国になる豪州とウクライナの輸出余力を中国が独占しなければならなくなる。その結果、カナダに輸出余力が大量に残るので、豪州やウクライナに依存していた欧州やアジアの輸入国が、運賃コストの増加を我慢してカナダ産を調達すれば一時的な混乱はあっても、最終的には国際市場の菜種不足は回避できるという机上計算になる。大豆の場合、米中両国の関税合戦が始まった昨年夏から、中国が積極的にブラジル産の調達を始めた事で、国際市場では米国産とブラジル産との価格差が急速に拡大した。その後、中国が米国産大豆に課した報復関税率に等しい較差の水準になると、次第に大幅に割安になった米国産にと中国以外の輸入国からの需要が移動する様になり、下図の様に南米産の新穀出回期になるとFOB価格は概ね等価に戻り、その後はアルゼンチン産大豆に収穫プレッシャーが強まっている。カノーラ(菜種)の場合も、大豆の様にカナダ以外の輸出国で中国の全需要量を引き受けることが可能になれば、その他の輸入国からの需要が割安になったカナダ産にと移動することで振替が実現することになるが、机上計算通りに物事が進むかどうかは保証の限りではない。

参考図② =大豆の輸出価格推移(2018年1月―2019年5月)=

(出所:米国農務省、5月度油糧種子の国際市場と貿易より転載。)

 

 

 

*中国の報復関税発動や欧州の環境規制がもたらす、国際市場の複雑さ

欧州の菜種生産が、昨年初夏の高温乾燥気候に災いされて減産に終わったので、供給が豊富なカナダ産カノーラ(菜種)を買い付けることで、欧州の需給操作は容易と思われた。所が、カナダのカノーラ価格が、他の油糧種子に比べて高止まりしたので、欧州の搾油業界はカナダ産GMOカノーラ(菜種)の調達に二の足を踏む状況が続いた。(欧州は食品用途にGMO油糧種子の使用を認めていない。)中国政府の報復関税発動により、米国産大豆を買えない状況に陥った中国の搾油業界が、ブラジル産大豆の他、カナダ産カノーラやカノーラ油・ミールの買付を増やした為に、欧州向けにカナダ産カノーラや油の供給余力があったにも拘らず、GMO油糧種子の消費がバイオディーゼル用途に限られる為に調達が見送られた。更に、欧州内部の要因として、菜種油の供給減退により不足するバイオディーゼル用途の植物油は、割安になった米国産大豆の輸入(搾油)増加で賄う方針が打ち出されたという。(トランプ大統領のEUからの自動車輸入税引き上げの脅しに屈して、EUが米国産大豆の輸入増加を約束した為とする見方もある。)又、フランスが旗を振って表向きは環境問題を理由に、欧州は東南アジア諸国のパーム油をバイオディーゼルの原料に使用しないという政治的な動きが起こった。その一方、米国産大豆には環境破壊の問題はない(小麦畑からの転用)という口実で、専ら植物油の供給を主目的に大豆の輸入が増加するという、従来に見られなかった形で米国産大豆の欧州向け成約が進んだが、南米産地から格安の新穀大豆が出回り始めるに連れて、欧州向けの動きも次第に減退することになった。この様に、農産物の貿易は単純に余っている国から不足する所にものが移動するのではなく、それが実現するための政治的なお膳立てが存在していると言える。

*何処に向かうのか? 世界の油糧種子(菜種)生産

欧州の共通農業政策(CAP)の下で、多くの農産物が供給過剰に陥った結果、多額の輸出補助金を給付して国際市場での売却を強いられた小麦の代替作物として(80年代に米国との間で小麦戦争が起こった)、農家に菜種の栽培を推奨し、21世紀になると地球環境に優しく且つ持続可能な代替原料として、油分含有量の高い菜種をバイオディーゼルの原料にする一石二鳥の農業政策が推進されて来た。農家に不満が高まるフランスやドイツ等、欧州の主要農業国は菜種の増産を通じた農家支援策を優先させて、比較的安価な可食油である東南アジア産パームには、熱帯雨林と言う地球環境破壊の元凶との口実を設けて輸入規制に動こうとしている。(その理由には、欧州各国の自動車業界が、技術的な壁にぶつかったディ―ゼル車の排気ガス抑制を断念して、電気自動車の開発と普及を最優先政策に転換したことで、バイオ燃料の将来性が失われたとの見方もある。)東南アジアの国々からは、過去の一時期に森林を破壊し尽して耕作地を拡大したのは欧州諸国ではなかったのかとの非難と伴に、欧州産ワインを始めチーズなどの農産物に対する報復措置の準備に取り掛かったと報じられている。更に、ASF(アフリカ豚コレラ)拡散の影響(豚の大量屠畜)で大豆ミールの消費が減退する結果、大豆油の供給も必然的に減少(大豆の搾油量が減退する結果)することで、植物油全体の需給が引き締まる中国に、パーム油は絶好のタイミングで転売先を見出せることになるなど、思い掛けない連鎖が生まれた。

 

気候風土の違いで、世界各国はそれぞれ独自の可食油を確保し、歴史的な食文化を維持して来た。インドの落花生、東欧・ロシアのヒマワリ、東南アジアのコプラなど、菜種や大豆以外にも沢山の油糧種子があり、米糠やトウモロコシ胚芽も油糧原料として忘れてはならない存在である。日本では、多種多様な油糧種子の搾油が特定の使用目的の為に継続している。(資料⑤ 日本の植物油の生産動向を参照願う。)今の所、そうした分野には、中国発の国際市場の混乱は波及していないが、米中通商戦争に端を発し、カナダに飛び火した油糧種子(大豆と菜種)の国際市場の大変動は、単に当事国間の通商問題ではなくなった。米国農務省は、例年5月度から次年度の穀物需給予測を開始するが、今年から全世界の数字から中国の需給数字を差し引きした、中国を除く世界の需給バランスを参考表示することにした。(資料⑥ 中国を除いた世界の穀物需給を参照願う。)中国政府が国際市場のルールを受け入れず、法外な内外較差を維持している為に、海外の需要者から中国の穀物在庫にアクセスする機会はないので、中国を算入した全世界の在庫数字が実態よりも高目に表示される弊害が危惧されたと思われる。中国が農産物貿易で米国との関税合戦を続ける限り、こうした全世界を中国とそれ以外とに2分した需給の把握が必要になる。

必ずしも分かり易い資料とは言えないが、米国農務省海外農業局から発表された、在北京駐在官報告による、中国の輸入国別の月次大豆輸入推定は下図の通りになっている。(2016年10月から2019年3月迄)

 

昨年夏以降の大豆市場での出来事は、米中両国の制裁と報復関税の発動に伴って生まれる価格差により、世界規模での調達先と販売先の移動が促されることになった。その結果、主要生産国で農家が柔軟に作付け転換を行う事で、天気が許せば次年度には需給の調整が可能になるので、ある程度の時間は必要になるが、市場に次の均衡点がもたらされることが示唆されている。昨年の米中通商摩擦が発端になった国際市場の混乱は、油糧種子の価格下落をもたらし、世界各地で農家の増産意欲に悪影響を及ぼす可能性が懸念される。一過性の価格下落はカノーラ(菜種)や小麦の一大輸入国である我が国には悪い話ではないが、長期的な観点では、穀類の主要生産国で農家の増産意欲をどの様に保持するのか?が試されることになった。不幸にして、WTOに加盟する各国が、高い農産物価格支持を通じた農家保護の仕組みを手控える事で合意していることが、気掛かりである。以上。

 

※菜種統計資料

 (岩崎食料・農業研究所 昭和47年上村ゼミ卒)

2019年5月30日記

 

洛友会(生物資源経済学専攻同窓会)